草いきれ2013/07/02 21:51

草いきれ
OLYMPUS Tough TG-1
OLYMPUS LENS 4.5-18.0mmF2.0-4.9
撮影場所:岩国市錦町向畑




小さなオフロードバイクを駆ってハンドルの向くままに

山間の細い道を走っていると、ときおりこんな光景を見かけることがある。

平家伝説が伝わるというこの集落にもつい何年か前まで

おばあさんがひとりきりで暮らしていたそうだ。

夏草に半ば飲み込まれたように見える建物のひとつには

かつてここにも学校があったという歴史の痕跡が残っている。

往時には300人の人々が生活していたという集落跡は

外部からの侵入者を拒むような草いきれに包まれ

ゆっくりと、だが確実に自然に返りつつある。

そのころにあった賑わいを想いながら、

風の音だけが聞こえるこの場所で僕はしばし立ち尽くす。

役目を終えて静かに佇む建物の群れは

すべての運命を受け入れて終焉のときを待つ。

そこには現役を退いて余生を送る老いの穏やかな無常観が感じられ

よく耳を澄ませば祇園精舎の鐘の声が響いているのかもしれない。

ふと我に帰った。

時計を見ても思ったほどに時間は進んでいない。

僕の日常にも遠い昔こんなふうにゆっくりと時が流れる時代があった。

時に追われ、時流に転がされるように生きている今、

新鮮でかつとても懐かしく思われる感覚だ。

僕がときおり出会うこんな光景に魅かれる理由は

案外そんなところにあるのかもしれない。

払暁2013/07/17 21:23

払暁
OLYMPUS Tough TG-1
OLYMPUS LENS 4.5-18.0mmF2.0-4.9
撮影場所:周南市菅野ダム湖




例年よりも早く入梅が宣言された今年の梅雨だったが

ここ何年かのお決まりのように末期の豪雨があがったと思ったとたん

炙られるような灼熱の日々が続いている。

暦の関係で例年よりも一週間ほど早く訪れた海の日に絡む三連休、

うんざりするような真夏の暑さから逃げるように

仲間たちと連れ立ってバイクで出かけた。

夏のツーリングは早立ちがいい。

日曜日の朝、まどろむ街を通り過ぎて山間へハンドルを向けると

お気に入りルートの途中にあるダム湖には濃い霧がかかっていた。

普段ならあまり見ることもないこんな景色に目を奪われて

ダムの軸上でしばらくバイクを停めて、僕は払暁の風景と一体になる。

朝の冷気は重い湿気を含み、真夏の爽やかな朝とは少し違う趣だ。

このモノトーンの風景に彩りが現れる頃には、

僕も仲間と合流して話を弾ませながらひとときの遊びに興じることだろう。

そんな一日のプロローグを楽しみながら僕は再び走り始める。

僕が走り去った後、しばらくはここもまた静寂に包まれるに違いない。

旅の空の下で2013/07/23 21:10

旅の空の下で
OLYMPUS STYLUS XZ-2
i.ZUIKO DIGITAL ED6-24mmF1.8-2.5
撮影場所:島根県江津市江の川河畔




週末の小さなひとり旅はお気に入りのバイクで

ハンドルの向くままにローカルな道を走るのがいい。

操る人間を急かすことのない穏やかなエンジンを

低回転でドロドロ言わせてゆっくりと田舎道を走るのがいい。

川の流れくらいしか競争するものもなく

その気になれば時の流れさえ追い越すことができそうなほど

のんびりとした風景に溶け込んでしばらく身を置いてみるのがいい。

容赦なく照りつける夏色の旅の空の下に僕はふらりと現れ

そして誰の記憶にも残らないまま、知らぬ間に去ってゆく。

あとに残るは一陣の風ばかり…。